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高任和夫□光琳ひと紋様

20130127

20130127光琳ひと紋様

「『秋草図屏風』をどう描けばよいか、まるでわからんようになっての。深い海の底で、溺れまい溺れまい、なんとか浮かび上がろうと、もがくような日々であったわ。〔…〕

そう思うと、まるで地獄の業火に焼かれているみたいやったわ。
……おまえも物を創る男や、この気持ち、わかるやろ」

「そりゃあ、わからんこともないですが……」

「わしは弱い男や。すぐ逃げてしまう。酒に溺れ、女に溺れる。爛れた暮らしに逃げて、身をさいなむ苦しみを忘れようとする。
体のなかを吹きすさぶ嵐が通りすぎて、ふたたび闘う意欲が湧いてくるのを、じっと待つしかない。

恥ずかしながら、いつもそうなんや


乾山は三、四度、首をふり、手酌で酒を飲む。


□光琳ひと紋様│高任和夫│潮出版社│ISBN:9784267019203│2012年10月│評価=○

〈キャッチコピー〉
莫大な父の遺産を食いつぶし、放蕩の限りを尽くしながら、美の世界に取りつかれた一人の絵師。その名は尾形光琳。師と仰いだ俵屋宗達の魂を受け継ぎつつ、そこにきらびやかな装飾性を練り込み、やがて『燕子花図』『紅白梅図』など絢爛豪華な作品を世に出した光琳の生涯を、京焼の名手であり最大の理解者でもあった弟・尾形乾山と対比させながら描いた長編時代小説。

〈ノート〉
光琳といえば、時代は100年ほど後になるが、「酒井抱一と江戸琳派の全貌」という展覧会を、2011年に姫路市美術館で見た。「姫路藩主の弟が江戸で拓いた粋の極み」というキャッチコピーを憶えている。

とりわけ抱一の傑作「夏秋草図屏風」は、光琳が宗達の「風神雷神図」を模写した屏風の裏面に抱一がみずから描いたもの。なぜ両面が見られるように展示しないのかと思ったら、表裏切りはなされ別々の屏風に改装されているとのこと。

さて、琳派は、本阿弥光悦と俵屋宗達が創始し、尾形光琳・乾山兄弟によって発展、酒井抱一・鈴木其一が江戸に定着させた。本書は、その尾形光琳を主人公に、弟の乾山、パトロンの二条綱平、中村内蔵助が描かれている。(ちなみに酒井抱一の登場する小説に乙川優三郎『麗しき花実』(2010)がある)


20130127光琳秋草図屏風

――これまでかかわりを持った女が、次々に脳裏に浮かぶ。律、すま、はつ、さん、それに性悪な細井つねさえも……。光琳にとっては、カキツバタの群れではなくて、女人の群れになった。
六日目の未明、「燕子花図屏風」が完成した。六曲一双、縦は一間に近く、横はほぼ二間の大作だ。はじめての金地極彩色画である。(本書)

天上も淋しからんに燕子花  鈴木六林男

〈読後の一言〉
「わしは草花を人として描いてきたのやないか」の一言で、光琳の絵が身近な存在になる。


〈キーワード〉
秋草図屏風 乾山 

〈リンク〉
高任和夫●敗者復活戦


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