平成引用句辞典

『平成引用句辞典』作成のための素材収集ブログ。1冊の本の中から気になるフレーズを紹介。

2012.05.18事実は真実の敵なり




研究とは思考と行動であり、人が行うものである。

「コンピュータに考えてもらい、ロボットに働いてもらって答えを出す」という現代の研究傾向にはいささか違和感を覚える。

内在的動機に駆動される学術には、効率性より思想が欲しい。考えることは楽しい。

秀才から程遠い私は教科書にある既成概念に一定の敬意こそ表すが、自己流の論理体系で納得を試みる性癖がある。整合すれば喜び、矛盾に出合って悩むことをむしろ生き甲斐としてきた。


科学の本性は客観性だが、独創とは「独り創造的であること」であり、

研究者は多数派にくみするのではなく、少数派であることを誇りにするべきである。


個性ある主観が不可欠で、とくに経験に基づく直観力が決定的にものをいうと考えている。


▼事実は真実の敵なり――私の履歴書│野依良治│日本経済新聞出版社│ISBN:9784532167721│2011年04月│評価=◎おすすめ

〈キャッチコピー〉
化学一筋に愚直に生きて、「研究者」としては世に認めてもらうことができた。自己実現を志向するものの、決して自己中心で生きたつもりはない。2001年ノーベル化学賞受賞の稀代の化学者が自らの研究人生、日本の科学技術政策の問題点、教育のあるべき姿を語り尽くす。

〈ノート〉
野依良治は1938年兵庫県生まれ。灘中高。柔道と勉学。「その後の級友たちの実社会での活躍度を見れば、生徒時の学力との間の相関関係はほとんど認められない」。

京大。河原町の繁華街で映画(山本富士子、新珠三千代の大ファン)、トリスバーで一杯80円のハイボール(この時代にまだ水割りはなかった)。 

名古屋大学。30歳から完全に仕事中心の毎日に移行する。仕事優先の融通の利かない化学バカに成り下がる。「私の振る舞いが粗野なのは、30歳以降の仕事一辺倒、人生の不勉強によるもの」。

書名の『事実は真実の敵なり』は、ミュージカルの名作『ラ・マンチャの男』の劇中のドン・キホーテのセリフから。

「われわれは毎日おびただしい断片的「事実」にさらされて、現実社会への埋没を迫られる。あるいは虚構の世界に逃避していく。これらの「事実」はたとえ限定的条件下においては正しくとも、背後にあるより普遍的な「真実」からは程遠い」。

「実験はなかなか計画どおりにはいかない。計画外の結果が出ることもしばしばある。しかし、計画どおりにはいかなかった実験結果にこそ、未踏の境地への可能性がある」。

アメリカで毎年、博士号を取得する人数。中国4000名(彼らが近未来につくる国際的人脈は巨大)、インド2000名、韓国1000名、そして日本200名(文化の多様性に対応できるよう、若いうちにぜひ多くの海外の友人をつくりたいもの)。

「賢者は文化を尊び、愚者は文明に従う。今世紀は「文化を尊ぶ文明」をつくるべきで、近未来の科学技術開発には文化的統治が不可欠である。〔…〕科学者や技術者は謙虚に人文学、芸術に学び、さらにそれらを含む文化全体の発展に寄与すべきと考えている」。

〈読後の一言〉
これぞエリートの格調高き研究人生と刺激的な文言

〈キーワード〉
研究者 科学 ノーベル賞
〈リンク〉
湯川秀樹◆旅人――ある物理学者の回想